ZMM0610 ・ゼール音楽事務所
《 室井摩耶子/モーツァルト生誕250周年ライヴ 》

2006年10月1日 発売

“ 音楽から立ち昇るモーツァルトの慟哭 ”

モーツァルト:ピアノソナタ 変ロ長調 K.570 (収録:19分43秒)
       幻想曲 ハ短調 K.475     (収録:13分42秒)
       ピアノソナタ ハ短調 K.457  (収録:20分47秒)

 

【レコード芸術】誌評 【特選】 2006年11月号

先年、ベートーヴェン<月光>ほかのライヴ・レコーディングで私たちを讃嘆させた室井摩耶子女史が、去る5月、東京オペラシティ・リサイタルホールにおいて、84歳で催された演奏会の記録である。曲目はモーツァルト後期の<ソナタ>、変ロ長調K.570およびハ短調K.457で、後者の前に、通例どおり<幻想曲>ハ短調K.475を置いている。

演奏は、このたびもまた、心底から讃えるほかに何のすべ術もないものだ。終始、柔らかくあたたかなねいろ音色と歌い回しに満ち、そして必要とあらば、なお豊かなブリオも発揮される弾きぶり。文字どおり、何とも知れぬ滋味にうるおされた奏楽である。変ロ長調ソナタ第1楽章の冒頭から出る第1主題にせよ、この「言葉」の「語尾」にあたる上向の音符2つが、そこはかとなく抑えられ消えてゆくニュアンスの美しさはすばらしい。このテーマが他の場合にも増して楽章中に大きな意味を持つ作りであるだけに、このニュアンスの果たす役割は豊かな作用を及ぼし、聴きてはしみじみと幸せになる。<幻想曲>ではひときわ、ライヴであるが故の感興の乗りが感じ取れる。時として役者が見栄を切るときを連想させる。一瞬の華やぎすらある。ただし、その華やぎは外なめざすよりも内から自然に湧き出でたもの。すなわち、べつな言葉を使うなら「いき粋」なのである。ハ短調ソナタもまた、とりわけ第3楽章でそれが際立つような、得も言われぬ感興の湧出がうれしい。私たちの心を慰撫し、勇気づけてくれる“選ばれたディスク”にほかならない。

濱田滋郎

昨年1月(注 本年1月の間違い)にリリースされたアルバム「月光のライヴ」はシューベルトのソナタの「すべてが心のままの演奏」に深い感銘を受けたが、それに続いて今年5月に行われたリサイタルのライヴ録音がリリースされた。今回はオール・モーツァルト・プログラムである。ソナタ第16番変ロ長調の緩やかに上下する主題がていねいに奏でられると、それを断ち切るように和音が敢然と打ち込まれる。続く部分では、マイクが微かに声にならないハミングを捕らえ、ピアニストの内面下で精神の高揚が渦巻いていることを伝えている。時にいくつかの和音を強調したり、テンポを微妙に揺らす。ライヴであること、そしてそのお年を考えればミス・タッチやぎこちなさやいささか古風なスタイルはある意味で当然といえる。後半ピアノの響きが濁ってくるのが残念。それもライヴ録音のむずかしさか。それでもピアニストがイメージしているであろう、多彩な情念の渦巻くドラマティックな音楽は聴き取ることができるし、今の時代にあって、それは大変に貴重なものだ。ハ短調の<幻想曲>とソナタもゆったりめのテンポを取り、第16番のソナタ同様、荘重かつ劇的な語り口と音楽作りでなかなか聴かせる。ライナー・ノーツで室井女史は1956年にウィーンで体験したベームとウィーン・フィルのモーツァルトに触れているが、その時代のワルターのそれに通じるものがあるかもしれない。

那須田務


【ショパン】誌評  特選 2006年11月号

モーツァルト生誕250周年リサイタル(5月4日 オペラシティ・リサイタルホール)のライヴ。85歳の現役ピアニストが熟練のピアニズムで磨き、音楽への愛を深めてのモーツァルト。なかでもソナタ第16番が玲瓏の妙演。

壱岐邦雄


【音楽現代】誌評 推薦 2006年11月号 

<生涯現役>をうたう室井摩耶子の今年5月4日のライヴ録音。私も演奏会を聴いたが、CDで聴くと表現のあくが少し強めになる。もともと濃密な感情のこめられた隙のない演奏で、エネルギッシュだが、音楽の流れは自然だった。CDでは少しゴツゴツして、流麗さよりも激しさが際立つ。変ロ長調K.570はシリアスな演奏で、しっかりと、じっくり弾きこまれているが、アダージョには温かい、人間味あふれる歌がある。アレグレットもまた分別ある大人の音楽。ハ短調の幻想曲K.457はダイナミックな演奏で、モルト・アレグロではどっしりと低音を響かせた豊かな和音が心に響く。アダージョはしっかりした足どりの含蓄に富んだ表現。終楽章は噛んで含めるような演奏。アレグロだからといって駆け出したりはしない。これがデビュー以来62年に及ぶ真摯な研鑽とキャリアの成果なのだろう。

青澤唯夫


【CDジャーナル誌】試聴記 

ドイツ音楽の伝統的解釈に基づくロマンティックなモーツァルトだ。ミス・タッチをものともせず感情の赴くまま濃厚に弾き切った幻想曲に感銘を受ける。ピアノ界の大御所である室井摩耶子の80歳を過ぎてなお衰えぬ表現意欲には、感嘆惜くあたわずにいられない。

現役最高齢ピアニストとして、生涯現役を貫いている室井摩耶子が続けているトーク・コンサートのライヴ録音。モーツァルトの音楽に自然に入り込んでその本質に触れるという、彼女の奥深い音楽性が楽しめる。

  

 


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